俯いたまま頷く私の肩を抱いて、敏ちゃんがその後の言葉を紡いだ。



「朝から社内が騒がしかったのはそのせいよ。他にも出向や異動の内示が出たのがいてね。」

「…そうか。」



視界の隅に、きつく握られた源の拳が入ってきた。

それは込められた力のあまり白くなっていた。



「アタシが思うに、専務と常務が絡んでるわね。あ、“元”専務と常務ね。」

「…あとあれか、人事部の…。」

「部長で間違いないわね。」



人事部…?

ふと顔を上げると、険しい表情をした2人がいたもんだから、私は呆然としてしまった。



「人事部の部長の息子がコネで入社したのは知ってるわよね?」

「う、うん…。」



どこの部署に所属してるんだったかまでは覚えていないけれど…。



「その息子が、陽萌に惚れてるらしいのよね。わりと有名な話なんだけど。」

「そ、そうなんだ…。」

「で今回、その息子も大阪の出向が決まってんのよね。」



あ…そういうことか。

源を見ると、腕組みをした壁にもたれ掛かり、大きく溜め息を吐いた。



「俺と陽萌を引き離して、ってのが人事部長の狙いか…。」

「でも恐らく、もともと陽萌を推したのは専務たちよ。」