「もう儀式の刻限かな?」

「そうだな。
 そろそろ、総会室に顔を出さないと」


腕時計に視線をむけながら告げる彩紫。


「了解。そろそろ着替えてくるよ」

「なら後で。
 俺も着替えてくるわ」



彩紫が退室すると私は奥のクローゼットルームへと向かい、
学院の制服である和服に袖を通す。


藤色の衣の丈を合わせると腰紐で結わえ、
そして袴を履いて……羽織を着つける。


創立当時から「和」を重んじるこの学院では、
今も「和服」が制服として使用されている。



手馴れた手つきで着付けを済ませると
ゆっくりと自分の部屋を退室する。


彩紫もまた着慣れた制服に袖を通して
自分の部屋からゆっくりと出てきた。


私たちは二人揃って専用の直通エレベーターに
学生カードを通して、肩を並べて一階の総会室へと足を運ぶ。



「おはようございます。

 綾音学院最高総・奈良朔学院最高総秘書。

 今年度、幼等部総代を任命されました
 二年生深鏡麗【みかがみ れい】です」


私たちが総会室に足を踏み入れた途端、
すでに制服に着替えた一般で言う幼稚園の年長組の子が
90度に腰を曲げてお辞儀をする。


形式にのっとった朝の挨拶を必死に覚えたんだろう。
幼すぎる子供が必死に挨拶するさまを見て遠い記憶を掘り返す。





私も……こうだったね……。






「深鏡、ご苦労様。
 頑張りなさい」




麗と名乗った生徒に彩紫が声をかけて私は柔らかく微笑む。


それだけで麗は凄く嬉しそうに『有難うございます』と
再度、最敬礼の体制をする。



「おはようございます。

 今年度、初等部総代に任命されました
 六年生の二階堂静【にかいどうしずか】です。

 総会でのお勤めは幼等部の時以来、二度目になります。

 まだまだ至らぬところもあると思いますが、学院最高総・最高総秘書に
 ご迷惑をおかけしないように精進して参ります。
 宜しくお願いします」

「二階堂、幼等部の折の采配は覚えています。
 今年も頑張りなさい」


続いて挨拶をした小学校四年生の二階堂にも、
彩紫がお言葉と呼ばれる独特のモノを返す。



私はと言うと半ばうんざりしながら笑顔を振りまくだけ。



「おはようございます。
 綾音最高総・奈良朔最高総秘書。

 この度はご就任おめでとうございます。

 今年、中等部総代を勤めさせて頂きます、
 羽音柳【はおと りゅう】です。

 憧れの先輩お二人の采配下で生徒総会のお勤めをさせて頂ける為、
 就任通知が届いた折から楽しみにしています。

 精一杯、頑張ります。
 宜しくお願いします」

「柳、貴方の思いに叶うよう私たちも勤めて参ります。
 柳の采配にも期待していますよ」


良くもまぁ、次から次へと言葉を返せるものだなーと
彩紫に関心しつつ、柳にも笑顔を振りまく。






……私は人形か……。






「おはようございます伊集院紫音。
 今年度、議会書記を勤めます」


「紫音、宜しくお願いします」


クラスメイトで大親友の仲良しトリオ。
その紫音が他人行儀に静かに挨拶をする。


その体勢は他の後輩たち同様に90度に腰を折って。


親友である紫音にすら自分から声をかけることが出来ない
理不尽なしきたり。



「おはようごさいます。
 綾音紫最高総・奈良朔彩紫最高総秘書。

 ……お早いお着きだことで……。
 今年度議会進行を勤める高等部14年、草薙紫蓮【くさなぎ しれん】」



次に挨拶をするのは一級上の先輩。