とけないパズルを抱いたまま、やはり体の衰弱には勝つことも出来ず
紫の言葉に甘えるように少し体を横たえると紫蓮が寝やすいように
その場所を整えてくれる。



何処に連れて行かれるのかわからないままに
成されるがままに。



四時間後、車に揺られ続けて辿りついた建物は、
見慣れぬ建物。




近代的な建物は、まだ真新しく新築されたばかり。



この建物が何の施設なのかも看板一つない今では、
何も知り得ることは出来ない。





「紫さま、お待ちしておりました。
 どうぞ中へ」




建物の自動ドアが開いて、
リムジンの傍まで迎えに来た何人かのスーツ姿の男たち。

確か……あの人は伊舎堂(いさどう)グループの会長。

そしてその後方には、車椅子を用意して近づいてくる
伊集院医師。

紫音のお父様。



「紫綺君、遠いところまですまなかった。
館内は車椅子を」


伊集院医師に促されるように車椅子に座ると、
背後に回った紫蓮がゆっくりと押し始めて、
館内へと入室する。




玄関ドアが開いた先には、待合室のような広い空間が広がり
窓口らしい場所が感じられる。






そのまま紫たちについてエレベーターに乗り込んで辿り着いたのは
特別棟と記されている建物。




その中の最上階に、紫は入るとソファーの前に立った。



「伊舎堂会長、伊集院医師、本日はお忙しい中
 お時間を作っていただきまして有難うございます。

 どうぞ、皆さまおかけください」


挨拶の後、紫が促すと一斉にソファーへと深く腰掛ける。


「紫綺さま、驚きのことと思います。

 私ごとではごさいますが、神前悧羅学院の学生として過ごしながら
 来年の高校三年生になる春より、
 学院理事長としての役割も一族から事業を受け継ぐことになりました。

 それに伴い、学院の未来を考えて綾音一族の単独で運営する学院ではなく
学院を手助けしてくださる大手財閥の得意分野での協力も得て、
 より過ごしやすい学園都市の構築をしてまいりたいとおもっています。

 その先駆けとして、医療業界に名を馳せる伊舎堂財閥との提携が叶うこととなりました。
 こちらの病院は、その共同出資の第一段で建設された病院となります。

 悧羅校には伊舎堂財閥ですが、海神・昂燿もそれぞれに医療施設の建設を進めています。
 
 医療の現場を担う一族と、これからの医療者を育てる学院。
 それらを結び付け、提携させることは双方に相乗効果があると言うことでプロジェクトを始動させました。

 まだ病院としては開業していませんが、幸いにして医療器具も揃い
 この特別棟は病室としての昨日も役割も整っています。

 紫綺さまには生きていてほしいのです。
 ドナーが見つかり次第、手術を受けて頂けますか?

 医師は紫音のお父様をはじめ、伊舎堂会長がその分野のエキスパートを揃えてくださいました。
 櫻柳会長並びに社長からも、紫綺さまの心次第で「息子をお願いします」と託されています」