*

特発性心筋症。

*



資料に記された病名。
そして父の専門医としての分野。


父が動いていると言うことは、
紫綺さまが心臓を患ってるかも知れないと言うこと。


そして……父が机に広げた資料は、
患者の年齢からして、紫綺さまのものかも知れないと言うこと。




これ以上、父に問いただしても答えはないだろう。




そのままお辞儀をして父の書斎を後にした。


翌朝、昂燿校に朝一で戻った私は、
紫と彩紫の元へと向かって、父から聞いた情報を全て伝えた。




「まさか……紫綺さまが……」



そう言って言葉を失った紫がすぐに行動にうつりノーパソをはじめる。



軽快なタイピングの後、液晶に映し出したのは
ここ数日の、紫綺さまの出席状況と、寮への外出届などの報告書。


授業の欠席、外出。

その日から二週間は外泊が続いているものの、
それ以上は未定と記されている。



紫は更にタイピングを続けて、
もう少し詳しい情報を引き出していく。




「紫……」



彩紫がモニターに映し出されたものを見て、
アイツの名を呼ぶ。



「彩紫・紫音、今日は出掛けようか。
 まずはキーワードになる校医の岸本医師。

 その後は、紫綺さまと紫蓮さまのもとに……」




モニターに映し出されたのは、教室で倒れたらしい紫綺さまが
校医の滞在する診察室へと運ばれた時の、校内の防犯カメラの映像。


その会話を読唇した内容。




その後、三人揃って保健室を訪ねた後、
岸本先生は頭をかきながら、体を小さくしつつ困ったように溜息をついた。




学院内とはいえ岸本医師は理事会でもないし、生徒総会でもない。



一生徒の情報管理とはいえ、生徒総会役員の権力は
教師よりも講師よりも校医よりも強い。



昔からのそんな慣わしも武器に変えて、
紫は計算的に、逃げ道を封じて岸本医師を追い詰めていく。



守秘義務と、実力行使の権力の狭間で
震える岸本医師に、紫は最後の質問を投げかける。



「紫綺さまはどちらに?」

「今日には君たちのPalaceに戻ってくる。
 全ては、櫻柳KINGから聞き出すといいでしょう」

「岸本医師、貴重な情報有難うございます。
 最後に一つ。

 特発性心筋症に有効な治療は?」



するとゆっくりと立ち上がった岸本医師は、
白衣を手ではらってゆっくりと告げた。