「紫音」





楽屋へと顔を出した紫と彩紫と共に、
最後の演奏者を見守る。



その一時間後、
最優秀賞として私の名前がホールに響き渡った。





その夜、紫と彩紫と会場で別れて
私は久しぶりの自宅へと戻った。




自宅に帰った私は父の元へと向かう。
ノックをして「失礼します」っと小さく呟いて書斎のドアを開ける。


『櫻柳も可哀想に。
 後継者たる、紫綺君があんな病気になるなんてな』



電話中だった父を見つめながら、
私はその場で立ち尽くす。


紫綺さまが病気?


あんなにも生徒たちを気にかけてくださる、
心穏やかな先輩が……。




「紫音、結果は鞠から聞いたぞ。
 最優秀賞だったようだな。
 おめでとう」



そう言って私に声をかけてくる父。



「有難うございます。
 父さん、先ほどの話聞こえてしまいました。

 紫綺さまが病気って、どういうことでしょうか?

 紫綺さまは、今期は最高総を紫に譲ったとはいえ、
 今もKINGとして学院生の頂きにいらっしゃいます」

「知っている。
 私も現学院理事会の一員だ。

 紫綺くんの一件に関しては、私が紫音に話せることはない。
 守秘義務があるからね」

「守秘義務がある……、それだけで十分です。
 お父さんが医師であることは知っています。

 紫綺さまは治るのですか?」



怖いと思いながらも紡ぎだした言葉。


学院内では疲れた顔一つ見せず
微笑み続ける紫綺さま。



だけど……昨年の夏が過ぎたころ、
紫綺さまが一気に痩せられたときは生徒同士でも
いろいろと噂が広まった。


だけどあくまでそれは、噂の域を脱することなかった。

それなのに……。




「紫音、詳しい状態も病名もお前に告げることは出来ない。

 だが……彼に長く生きて貰いたいと望むなら、
 彼が安心して入院できるように、お前たちからも話してほしい。

 彼が入院を決断した時、すぐにでも対応出来るように私は準備を進めておく。

 特に……そうだな。
 今、新プロジェクトの中心にいる、紫君の力があれば
 何とかなるかもしれない。

 無論、紫君だけでは難しいと思うが……」



そう言って父は、鞄の中から取り寄せた手元の資料を
机の上に広げた。


その中には、患者さんの検査データらしき数字と画像が
記されていた。