けど一生懸命なところが、
俺にはまた放って置けなくて……。

学院内の何処に行くのも、
何をするのもいつも一緒だった。


紫が俺を頼ってくれるのも嬉しくて。


そんな紫が中等部にあがった頃から、
物凄い勢いで成長した。



幼いあどけなさがなくなり、
俺には今を生き急いでるようにも映った。


何時しか俺を呼ぶ名が、
彩紫君から彩紫に変わって物悲しさと嬉しさが
俺自身を包み込んで複雑な時間も過ごした。



だけど紫は紫。



今の俺に出来る精一杯で俺は紫をサポートしたい。


俺は何時だって紫の秘書のつもりで生きてきたんだ。


俺がどれだけ秘書のつもりで生きてきても、
生きる世界が違う俺には本当のそのポジションは望めないかも知れない。


ならせめてこの時間だけでも、
俺は紫のアイツの片腕として……存在していたい……。



それが俺の願い。



ふいに部屋のベルが鳴った。



俺は部屋の外の相手をモニター越しに
確認するとドアを開けて……紫を迎え入れる。



「……紫……どうした?
 今日はお前確か、実家で一泊のはずだろう。
 何か何かあったのか?」



紫は不機嫌極まりない表情を浮かべて、
唇を噛み締めている。


何も言わずに……無言で部屋の中に入り、
共同スペースであるリビングのソファーに腰を降ろす紫。


俺は早々にキッチンから紫の好きな、
ハーブティーを入れてアイツの前に差し出す。


ワナワナと怒りに震え続ける手で何とか、
カップへと手を伸ばし添えるとアイツはゆっくりと
一口、口元へと運んだ。



「彩紫、もうこの学院は終わりだよ。

 あの石頭、私の意見など聞く耳はないそうだよ」


紫はティーカップをテーブルに置くと、
その手でクッションに拳をぶつける。


紫が言う石頭とは俺の家族が崇める、
紫の父である紫皇さまの事だ。



「綾音社長と何を揉めたんだよ」

「何も揉めてなどいない。
 揉めることすら出来なかったよ。

 私が一言、今後の学院の運営方針について
 提案があると言った途端頭ごなしに怒鳴られたよ。
 
 あの石頭、『由緒ある学院の歴史に泥を塗るきか、紫っ!!』って
 感情任せに怒鳴りやがった。
 
 今の学院など、ただ歴史が古いだけの牢獄だろう。
 
 時代錯誤な決まりごとを唯、伝統だ伝統だと継承し続けて
 生徒の感情を抑圧し続け、思考する手段を奪い取る最低な学校だろう。
 
 これが由緒ある伝統なら、
 そんな伝統壊してやるよ。
 
 何もかも粉々に跡形もなく」



初等部の中学年に進級した頃から、
紫は……誰の悪口であろうとも一言も言うことはなくなった。


勿論、毒を吐き出し、
今のように感情を剥き出しにすることがなくなった。


いつも自分の中で一線を引き、
感情を押し殺すようにして学院のリーダーとして
生徒総会の役員として尽くすようになってきた紫。


その紫が今……俺の目の前で、
その内に秘める感情を剥き出しにしてくれることが
俺には嬉しくて。