学院の最高総の居場所が学院内の此処にしかないなど何とも皮肉なことだ。




一人ごちりつつ私は『palais』の庭園のすみにある
テーブルにハーブティーを置いて、一人静かにティータイムを過ごす。





歴代の最高総は何時も、
このような孤独のなかで時を過ごし続けてきたのだろうか?



辺りには生徒の声一つ届かない。
誰も居ない、私一人だけの空間。



今は彩紫も私の傍にいない。




「紫最高総、このような時間にこのような場所で。
 どうかなさいましたか?」



ふいに声が聞こえて思わずその声の主を見つめる。



「紫綺さま」

「寂しそうな顔をなさっていますね。

 紫、貴方がそのように沈んだ表情をしていると、
 学院の生徒たちが道に迷いますよ。

 凛としてらっしゃい」

「……申し訳ありません……」

「紫綺さま……私は就任直後から今の最高総と言う役割に
 疑問を覚えずにはいられません」


「紫、貴方も上に立つものの孤独を初めて今年知ったということですね」

「上の立つ者の孤独?」

「えぇ、上に立つ者は孤独です。
 ですがその孤独は、将来のアナタにとって大きく意味を得るものとなることでしょう。
 去年までの私もそうでした」


紫綺さまの言葉に
私はただ頷き返すことしか出来なかった。



上に立つことが孤独でしかないのなら、
それは……間違っているのではないか。



そう思う私自身。



「昨年、紫綺さまも最高総として
 このような時間を過ごされていたのでしょうか?」

「えぇ、気軽にテラスへも顔を出せなくなってしまいましたね」

「はい。
 先程、何も考えずただ学院の生徒たちの今を知りたいとお邪魔したところ
 皆のランチタイムに水をさしてしまいました」

「私も覚えがあります。
 それで紫は此方へ?」



再度、私は頷いた。



「私も最高総を退いた身とはいえ、昼休みに教室やテラスに
 滞在し続けることに気が引けてしまって、
 今でもこうして自室へ戻ってしまうのですよ。

 ですが、紫がこうして此処でティータイムを過ごすのであれば
 明日からは私もご一緒して宜しいですか?」

「勿論です。
 私に断る理由はありません」

「紫、貴方にお聞きしたかったことが
 あるのですが……宜しいですか?」

「はい」

「紫、最高総に就任したと同時に貴方の髪型が変わりましたね。

 もともと長く美しい艶やかな髪ですが、
 今は前髪と左右の髪少しだけを残して全て髪を下のほうでライラックのシルクリボンで
 結んでいますね。

 何か意味はあるのですか?」





気がついていらっしゃったんですね。







最高総に就任した日から、
私は自分のなかで一つの願掛けをした。





無事に最高総の勤めを果たし、
今思う改革を導き終えるその時までこの髪型で居続けることを。