「あぁ~疲れた~」
「お疲れー」

そんな声が体育館に響く。
男バスの練習が終わったのだ。

「...と、今日当番だ。」

そう呟いたのは詩菴。

ボールの片付けは日替わり当番制だ。
いつもはマネージャである桃愛と一緒にやるから楽しみにしていた詩菴だった。

だが、

「ごめんッ!梨李芽たちに呼ばれちゃったんだ!」

そう言って行ってしまった桃愛の後ろ姿を詩菴はただ見ていることしかできなかった。

「フー」

とため息をついた。今は広い体育館に1人。
そのため息の反響がやけに大きく聞こえる。

なんか虚しいな。そう思ったと同時に入口から誰かが入ってきた。

(立花か...?)

桜湖はまっすぐ詩菴に向かって歩いてくる。
なんか変な感じだ。

ようやくその人物が疑問系じゃなく、立花だ。とわかったとき“変な感じ”の正体がわかった。

近づいてきた桜湖の髪は濡れ、いつものツインテールをほどいていた。

「?!!」

急によりかかってきた桜湖に詩菴は驚く。

いつもの詩菴なら戸惑ってあたふたするが、なぜか今は冷静だった。

詩菴はペットを扱うみたいに軽く桜湖を抱きしめた。

いつもの自分らしくないことを彼女でもないやつにしているのが不思議で仕方なかった。

少しして、「おい、立花」と声を発せようとしたが、その口は桜湖の“ソレ”によって塞がれた。

その時詩菴は気づいていなかった。
この状態を桃愛が見ていたことに。