~プロローグ~

雨の降る夜だった。

ようやく蕾をつけ始めた桜の木が雨に打たれて、風に吹かれて揺れていた。


明かりの灯った窓から歌声が聞こえていた。



少女はその曲を知っていた。

一体誰が歌っているんだろう。

考えたが思い当たる人物はいない。



でも、一見か弱そうなその声は力強く、懐かしく、なんだか自然と心があったかくなった。


少女が立ち去った後、桜の気がさみしげに影をアスファルトの上に落としていた。

少女はその出来事を忘れてしまっていた。


まるで儚くておぼろげな夢の1部のように...