高1の時の、体育祭の日。
たいして学校行事に燃えようとも思わないグループに交じって、応援している生徒たちの輪の中からそっと抜け出した。
競技には出る。それなりにまじめにやる。
でも、みんなで声を揃えて「がんばれー」なんて言うのは、あまりに馬鹿らしく思えてできなかった。
校舎の奥にある空き教室で飲み物を片手に、お菓子をつまみながら他愛無い話をぐだぐだと続けていた。
ようやく重い腰を上げたのは、うっすらと聞こえていた生徒のざわめきもやみ、閉会式が始まっているようだと悟ってからだった。
だらだらと片づけをし、閉会式が終わった頃を見計って外に出た。
校舎内にいたから全く気付かなかったが、午後になってから小雨が降ったらしく、地面は湿っており、得点版に張られた紙の端には泥がこびりついていた。
その下で片づけをしている生徒たちの手や足や顔にも、泥が散っていた。
皆、泣いていた。
どうやら赤組が負けたらしい。
得点板を見ると、わずか4点差だった。
勝負なんてこんなものだと思いながら、何をするでもなくその場に立っていた。
グループのほかのメンバーは片付けもさぼるつもりらしく、すでに校舎のほうへと歩き出していた。
あとを追おうと足を一歩前に進めたその時、クラスメートの会話が聞こえてきた。
「残念だったね」
「うん。もうちょっと応援頑張ればよかったな」
自分のことを言われているようで、少しドキッとした。
もう一歩、踏み出したとき、会話の続きが耳に入ってきた。
「でも、あれは綺麗だったよね」
「ああ、あの虹」
「そうそう。すごく綺麗だった」
その会話を聞いた瞬間、この1日を無駄にしてしまったという思いが心の底から湧き上がってきた。
教室の机が、食べたお菓子が、こぼした飲み物が、電灯の光が―――今日目にした、頭の中に焼き付いたものたちが、急速に色褪せていく。
どうして、自分たちだけあの場所から外れてしまったんだろう。
どうして、いつでもできるような、いつもしているようなことをするために、特別なこの日を棄ててしまったんだろう。
どうして、もう二度と戻らない時間を無駄にしてしまったんだろう。
どうして―――。
その時、校舎へと歩を進めていた仲間たちが自分の名を呼ぶ声がした。
だが、もうその呼びかけには応じなかった。
ゆっくりとクラスの輪の中に入り、黙々とテントの片づけに手を貸した。
クラスメートたちの話題は、専ら”虹”。
黙々と作業を続けながら、無力感をかみしめる。
祭りをさぼったという後味の悪さ。
片づけに対する徒労感。
片づけはやったんだという妙な清々しさ。
そんな感情をすべて足し合わせてみても、虹を見逃した寂しさを埋めることはできなかった。
夕日に照らされたグラウンドはがらんとして、それでもどこか充実したような顔をしていた。
たいして学校行事に燃えようとも思わないグループに交じって、応援している生徒たちの輪の中からそっと抜け出した。
競技には出る。それなりにまじめにやる。
でも、みんなで声を揃えて「がんばれー」なんて言うのは、あまりに馬鹿らしく思えてできなかった。
校舎の奥にある空き教室で飲み物を片手に、お菓子をつまみながら他愛無い話をぐだぐだと続けていた。
ようやく重い腰を上げたのは、うっすらと聞こえていた生徒のざわめきもやみ、閉会式が始まっているようだと悟ってからだった。
だらだらと片づけをし、閉会式が終わった頃を見計って外に出た。
校舎内にいたから全く気付かなかったが、午後になってから小雨が降ったらしく、地面は湿っており、得点版に張られた紙の端には泥がこびりついていた。
その下で片づけをしている生徒たちの手や足や顔にも、泥が散っていた。
皆、泣いていた。
どうやら赤組が負けたらしい。
得点板を見ると、わずか4点差だった。
勝負なんてこんなものだと思いながら、何をするでもなくその場に立っていた。
グループのほかのメンバーは片付けもさぼるつもりらしく、すでに校舎のほうへと歩き出していた。
あとを追おうと足を一歩前に進めたその時、クラスメートの会話が聞こえてきた。
「残念だったね」
「うん。もうちょっと応援頑張ればよかったな」
自分のことを言われているようで、少しドキッとした。
もう一歩、踏み出したとき、会話の続きが耳に入ってきた。
「でも、あれは綺麗だったよね」
「ああ、あの虹」
「そうそう。すごく綺麗だった」
その会話を聞いた瞬間、この1日を無駄にしてしまったという思いが心の底から湧き上がってきた。
教室の机が、食べたお菓子が、こぼした飲み物が、電灯の光が―――今日目にした、頭の中に焼き付いたものたちが、急速に色褪せていく。
どうして、自分たちだけあの場所から外れてしまったんだろう。
どうして、いつでもできるような、いつもしているようなことをするために、特別なこの日を棄ててしまったんだろう。
どうして、もう二度と戻らない時間を無駄にしてしまったんだろう。
どうして―――。
その時、校舎へと歩を進めていた仲間たちが自分の名を呼ぶ声がした。
だが、もうその呼びかけには応じなかった。
ゆっくりとクラスの輪の中に入り、黙々とテントの片づけに手を貸した。
クラスメートたちの話題は、専ら”虹”。
黙々と作業を続けながら、無力感をかみしめる。
祭りをさぼったという後味の悪さ。
片づけに対する徒労感。
片づけはやったんだという妙な清々しさ。
そんな感情をすべて足し合わせてみても、虹を見逃した寂しさを埋めることはできなかった。
夕日に照らされたグラウンドはがらんとして、それでもどこか充実したような顔をしていた。