中2の夏、だったと思う。
 7月の初旬、確か1学期末の2日目か3日目か、そのくらい。
 やっぱり、雨の日だった。
 いつも一緒にいる友達と、放課後、残って話していた。
 放課後と言っても、2時間しかないテストのあと。
 まだ昼にもなっていないし、早く帰って勉強する気にもならない。
 帰りが遅くなったとしても、母も父も仕事に出ていて、少々ならばれない。
 “雨がやむまで”―――――そう理由をつけて、教室にたむろしていた。
 万が一、先生が覗きにきても怪しまれないように、ノートを片手に持ったまま、くだらない話をしていた。
 テレビ番組の話。
 クラスメートの話。
 部活の話。
 ゲームセンターの話。
 休日の話。
 幾度となく話題を変えながら、雨音をBGMに、誰かが「おなかすいた」と言いだすまで、ぐだぐだと喋りつづけた。
 誰かの言葉に、なにげなく時計を見てみると、話し始めてから2時間余りが経過していた。
 BGMは、いつの間にか蝉時雨に変わっていた。
 あわてて帰る支度をし、それぞれ散り散りになっていった。
 1人、軽い鞄を抱え直して歩く、その頭上には、雨上がりの青空が広がっていた。
 雨があがってからもうだいぶ経つらしく、道路は雨でまだら模様に染まっていた。
 ふと見上げると、その瞬間、目の前にあった太陽の光が、まっすぐに両眼を射た。
 思わず顔をそむけた、その視界の端に捉えられた、光の端。
 ―――また、虹が出た。
 出た、というよりはもう、ほとんど消えかかっていた。
 うっすらと、しかしはっきりと、空には虹がかかっていた。
 その日の夕食時、久しぶりに家族全員揃ったところで、5歳年下の妹がいきなり、そういえば今日ね、虹が出てたよ、と言った。
 昼休みに校庭で遊んでいて、見つけたのだそうだ。
 とっても綺麗だったよ、そう言いながら妹は、うっとりした目をした。
 そう聞いたとき、なんだかとても損した気分になった。
 虹を見られなかったことも、無駄に潰してしまった時間も。
 テレビではアナウンサーが、晴れ晴れした顔で、梅雨明けを報じていた。