小6の、冬休みだった。
 午前中に友達5人で公園に行った帰り道。
 1人、またひとりと曲がり角を曲がっていく。
 最終的に自分以外誰もいなくなった昼間の道、うららかな陽光が降り注ぎ、人通りもあるはずのそこには、今、人っ子一人おらず、黒雲が真っ暗な影を落としていた。
 雨が降り出さないうちに、帰ろう。
 そう思い、早足になったのを、しかし空は嘲るように、雲同士の距離をどんどん縮めていく。
 やがて、ぽつり、と頬に雨粒が当たった。
 1つ零れた滴を合図にしたように、次々と雨粒が転がり落ちてくる。
 懸命に動かす足に、地面で弾んだ水飛沫が、邪魔をするように纏わりつく。
 前後に振る腕に、大粒の水滴が降りかかる。
 それらを振り払い振り払い、ようやく家の前に辿りついたとき、突然、雨がやんだ。
 雲が西の方へと逃げていき、太陽が顔を出す。
 しばらくその空を見上げていたけれど、太陽に薄い雲がかかっとき、くしゃみが出て我に返った。
 頭から爪先までびしょ濡れだった。
 もう1つくしゃみが出て、慌てて誰もいない家の中に入った。
 温かいシャワーを浴び、髪を拭きながら出てくると、キッチンにコンビニ弁当と置き手紙とがあった。
 手紙にはいつものように、母親の帰りが遅くなることと、昼はコンビニ弁当を温めて食べるように、夜は出前を取るように、ということが走り書きされていた。
 本当は、自分で食事ぐらい作れる。
 だけど、材料を買うお金もなければ、わざわざ作る理由もない。
 普段ほとんど使われないキッチンはぴかぴかで、冷蔵庫の中も空に近い状態であることは明確だった。
 そもそも、料理を作ろうというやる気など、はなからない。
 だから、書かれているとおり、コンビニ弁当を電子レンジにつっこんだ。
 レンジが低い唸り声を上げながら動いている間、何の気なしに窓の外を見上げた。
 さっきまでの雨が嘘のように、すっきりと晴れ渡った冬空には、半分消えかかった虹があった。
 確かな7つの色と、境界で混ざり合ってぼやけた、無数の、見分けのつかないほどの色が、そこに浮かんでいた。
 ピー、ピー、ピー………と、電子レンジが、無機質で感情のない機械音で現実を知らせてくれるまで、ただぼんやりとその虹を見つめていた。
 弁当を食べ終えて窓の外を見ると、そこにはもう、ひたすらに青く、ひたすらに広い空が、町を見下ろしているだけだった。