窓の向こう側から、雨音が聞こえる。
「関東地方では今日、57日ぶりの雨となりました―――」
 妙にはしゃいだアナウンサーの声が、テレビから洩れる。
 2カ月近く、太陽の光にさらされてばかりで渇いていたアスファルトの上を、巨大な雨雲が通り過ぎてゆくらしい。
 恵みの雨?
 ……そう呼ぶ人も、いるだろう。
 だが、ここは都会。
 立ち並ぶ高層ビルの真ん中で、雨を喜ぶ人は、そういないような気がする。
 断水の心配がなくなって、ほっとひと息つく程度だろうか。
 テレビの電源を消し、机の電気スタンドの電源を入れる。
 使った形跡のない勉強机に、うっすら積もった埃がきらきらと輝いた。
 汚い、と思った。
 だが、埃を拭き取る刹那、
 ――――きれいだ
 そんな思いが、確かに心の中でことりと音を立てて揺れた。
 電灯の光を借りれば、煌めく埃。
 自分は―――輝けない自分は、埃以下。
 考えるのが面倒になり、汚れを一気に拭き取った。
 机は、またガランとした、味気ない置き物に戻った。
 それが、自分の姿そっくりであろうことは、容易に想像がついた。