黄昏に香る音色

「で、でも…」

何か言おうとした明日香を、こちらに向けたゆうの目が、止めた。

あまりの目の強さに、明日香は動けない。

やがて、ゆうは微笑むと、ゆっくりと手摺りから、離れた。

「もう…時間だね」

固まっている明日香。

「ぼくの好きに対しての答えは、いらない。ただ…明日も、ここに来てほしい」

ゆうは、明日香を見つめながら、歩き出す。

名残惜しそうに、体育館の横に降りる階段を、降りていく。

少しつづ見えなくなるゆうの背中の向こうに、

山の遥か向こうに、沈んでいく夕陽が…赤より真っ赤になって、

今日…最後の輝きを見せる。





明日香は、頭がぼおっとして、1人…渡り廊下に立ちすくむ。

しばらく動けなかった。

息もしていたのだろう。

好きと言われて、何の反応もできなかった。

それを後悔したり、

悔やんだりする思考能力も、

今の明日香にはない。


好きだ。

好きだ。

あなたが好きだ。

という…ゆうの言葉と、顔しか浮かばない。

好きだ。

好きだ。


明日香さん。


校舎が、今日最後のチャイムを鳴らす。

明日香はやっと、渡り廊下から歩き出した。