甲高い声がした。

ゴールネットが、天に帰ろうとするかの如く、ボールは、ネットに突き刺さった。

高橋の足から、煙でも立ち上っているような…錯覚を覚えるシュート。

ゴールキーパーは、一歩も動けず、しばらくして、推進力を失ったボールが、キーパーの足元に転がった。

高橋は、シュートが決まっても、当然とばかりに、表情を変えず、クールにゴールに背を向けて、歩き出す。

やることは終わった。

その姿は、自分のパートは終わったからと、

観客に背を向けて、ステージを去る…帝王マイルス・ディビスを彷彿させた。

マイルス・ディビス…。

明日香の目指す…音を奏でる音楽家。

クール過ぎだ。

と…普段の明日香なら、知ったかぶって、分析するところだが、

「あっ…。ゴール…決まったんだ…」

シュートが決まったことさえ、認識できなかった。

見ていても、見ていない。

(どうしたんだ!あたし!)

自分の頭を、叩いてしまった明日香は、

近くに男の子がいることを思い出し、手を止めて、

徐に…隣を見ようとした。

グラウンドでは、

高橋が、ハーフラインに戻るところだった。

明日香の視線が、男の子をとらえようとした瞬間、

校内にチャイムが鳴り響き、部活の終了を告げた。