優一は、もう見えなくなった電車が向かった方を見つめながら、

「どうかしたの?有沢さん」

明日香にきいた。

「何でもないです」

明日香は、素っ気なく答えると、優一を無視して、このホームから、去ろうとする。

明日香の電車は、隣のホームに来るからだ。

「雪野さんは、連れていかれたよ」

優一は、明日香の背中に話しかけた。

「え?」

明日香は、立ち止まった。


「きみ達が去った後。サッカー部の男の子と、雪野さん達がもめているのを、誰かが通報したらしい。生徒指導の先生が来て、連れていかれたよ」

優一は、ゆっくり明日香に近づく。

「きみ達は、大丈夫だと思う。心配しないで」

優一は、そっと明日香の肩を叩こうとした。

けど、寸前でやめた。

優一は、明日香のうなじを見つめ、

すぐに顔を背けると、叩こうとした手を握り締めた。


「じゃあ。気を付けて」

優一は、明日香に背を向けて、今滑り込んできた里美と同じ線の電車に、乗り込んだ。

明日香は、電車が発車し、通過するのを、横目で感じながら…ぼそっと呟いた。

「心配するわよ」