恵子は、健司の顔を見れなかった。

「初めて聴く曲なのに…心の中に響いて…か、感動しました!」

少し興奮気味に、答えてしまった恵子を見て、

健司はにこっと笑うと、

「ありがとう」

そう言うと、階段を上がっていた。

顔がにやけてしまって、

恵子のそばにはいけない。

少し、ポカンとしてしまった恵子は、

下から聞こえる最新電車を告げる駅員のアナウンスに、はっとなって、

慌てて、階段を降りていった。


逆に、再び地上に出た健司は、

もう帰れなかった。

さっきの最終は、健司にも最終だった。

だけど、

「乗れるかよ」

ニヤニヤ笑いがとれない。

健司は、ポケットからタバコを取り出した。

「わかるやつも、いてくれる」

健司は、タバコをくわえながら、

しばらく火をつけず、

ただニヤニヤと笑い続けた。


「だから…音楽はやめれない」