信号を渡り切り、

駅への階段を、降りていく健司は…なぜか、ニヤニヤと笑っていた。

自分では、笑っていることに、気付かない。

階段の途中で、足を止め、

振り返って、見上げた。

さっきの女は、来ていない。


「あの子は…」

健司は、壁にもたれた。

「タバコの似合わねえ女だ」

客席にいた…本物の観客。

健司は、待つことにした。

なぜ、待つのかわからなかったけど、

健司は待った。

この駅に、向かってるのかも、わからない。

この階段を降りてくるかも、わからない。

健司と同じ時に、信号を渡った人達は、

健司を追い越していった。


しばらくの間。

見上げ続けていた健司の目に、女が映った。

ステージ上からではなく、

外で、まじまじと見た女を…健司は、美しいと思った。

驚く女に、健司はまた、頭を下げた。

女も、途中で足を止め…頭を下げた。


健司は思った。

訂正しなければ…。

この女はいずれ、

とびきり、タバコが似合う女になると。