ライブが終わり、

スタジオの近くのbarで、明日香達は一息ついていた。


明日香は、カウンターに座り、ジントニックを頼む。

そう言えば、

お酒をゆっくり飲むのは、この国に来て初めてだ。


渡米して、半年。

ライブばかりだった…。


明日香は、ジントニックを1口飲んだ。

(おいしい!)

と思える。

やっと…心に少し余裕が、できたかもしれない。

恵子にはほぼ毎日、阿部と啓介が連絡していた。

明日香も電話に出る。

恵子はいつも、元気そうだった。

いつも、明日香のことを心配していた。

「大丈夫だよ

と、明日香も恵子もこたえる。

それが、おかしくて笑った。



後ろの小さなステージでは、

ミュージシャンが、バンドネオンを弾き、タンゴを奏でる。

この地区は、どこでも音楽があった。

音楽による地域の活性化と、子供達の育成を目指していた。

いい国。

と安心したら、サミーに怒られた。

(この通りを、少しでも離れたら、命がなくなるぜ)

明日香は、それも分かっていた。

寝泊まりしているスタジオ上のアパートから、

そんなに、遠くないところで、銃声がきこえた。

それは、1晩だけではなかった。

パトカーの音は、日常の当たり前の音になっていた。



明日香は、ジントニックをおかわりした。

「失礼…。あたしにも、ジントニックを」

隣に、女性が座った。

明日香には、誰かわからなかった。

妙に存在感がある。

店内が騒めく。

明日香は、隣を見た。

よく見ると、年をとっているが、

それを感じさせない。

目に、力があった。

バーテンが、ジントニックを女性の前に出す。

女性は、グラスを手にとり、明日香の方を向くと、

「乾杯、よろしいかしら?」

明日香は一瞬唖然とし…はっと我にかえると、

慌ててグラスを手にとる。

その姿を見て、女性はクスッと笑う。