阿部は、舌をまいていた。

(いきなりオリジナルか)

それも、ステージで作曲していく。

啓介は、曲順を決めなかった。

ただ、LikeLoveYouの曲をやると。

いきなり知らない曲。

そりぁそうだ。

今、作曲している。

それも啓介ではなく、

明日香だ。

初めての外国。

まったくちがう観客の前で、ライブで曲をつくるだと。

阿部達は、明日香のトランペットの音に、全神経を集中させる。

明日香は、天性のメロディメイカーだ。

それもどこか日本ぽい。

それに、懐かしい。

心をかきむしるような…切なさがある。

それは、何かをカバーしてるとか、切なく吹いてるではない。

子供の無邪気さ。

無邪気な子供に戻れない切なさ。

無垢な音。


(チッ)

阿部は、舌打ちした。

明日香の邪魔をしないように、弾くだけで精一杯だ。

気が付くと、原田はピアノを弾くのを止めていた。

弾いたら、邪魔だと感じたのだ。

明日香の展開に、難なく合わせていく啓介にも、驚いた。

武田は、リズムキープに徹している。

もうだめだと、阿部が思った時、

明日香は、ストレートミュートを付け、印象的なイントロを奏でる。

間一髪を入れずに、原田がピアノを弾く。

yasashisaだ。

知っている曲に変わり、

阿部はほっとした。

観客は、息を飲んだ…。ため息すら、飲み込んだ。

今、この瞬間、

明日香は、トランペッターとして、

羽ばたいていく。

LikeLoveYouの

アメリカでの活動が、始まったのだ。