黄昏に香る音色

唐突な質問にも、明日香は微笑み、お爺さんの目をまっすぐ見据え、

「あたしの音楽は、ジャズともソウルとも、いえません。そんな…ジャズといわれるほどよくないし、まだまだです。だから…」

明日香は少し悩み、

「…あたしの音楽は、まだまだの音楽」

明日香の答えに、お爺さんは驚き、

やがて大笑いした。

「まだまだの音楽!そんな答え、はじめてだ!大体、若いやつはジャズだとか、ロックとかいうもんなんだがな。後は、今風の言葉を並べやがる」

お爺さんは感心したように、頷き、

「特に…俺が、知ってる日本人ってやつの多くは、ジャズと答えても、ジャズ風の演奏しかできないやつばかりだった。お前以外はな」

お爺さんは、啓介を見た。

啓介は肩をすくめた。

「さすがは、啓介の彼女だ。俺は、ジャズとかソウルとか…言葉に、捕らわれてるミュージシャンが、大嫌いだ。俺らの頃は、そんな言葉なんてなかった。ただ俺の音楽。ヒップなな」

啓介は、明日香にお爺さんを紹介した。

「彼はサミー。エンジニアだ。もしかしたら…黒人で初めて、エンジニアになったかもしれない。もともとミュージシャンで、ビーバップ全盛期を、知ってる生きた化石だ」

「化石とは酷いなあ。どこかの博物館に飾ってもらおうか」

「博物館はここだろ?」

啓介は、このスタジオを指差した。

「啓介!いきなり、押しかけてきたと思ったら…スタジオをアパートを貸せだぜ」

「ダイアナは、快く貸してくれたぜ」

サミーは頭を抱え、

「この糞ガキは、うちの奥さんにうまく、取り入りやがる」

「この国で、やっていく為に、1番大切なのは…女に気にいられることだっていったのは、サミーだぜ」

サミーは明日香に近づき、耳打ちする。

「気をつけることだ。とんだ女たらしだぞ…あいつは」

サミーの忠告に、笑顔でこたえる明日香。

「そうなんだあ!気をつけます」

明日香の満面の笑顔に、啓介は慌てる。

「冗談に決まってるだろ。アメリカンジョークだ」

啓介の様子を見て、サミーは阿部にきく。

「啓介は、尻にしかれてるのか?」