黄昏に香る音色

ニューヨーク。

初めての海外。

行き交う人々の多さとビルの多さに、

明日香は、感嘆した。

圧倒されるよりも、空気感が、日本と違った。

まるで、空気が、肌を突き刺すような感覚。

(国が…違う)

明日香は、改めて、外国ということを意識した。



時間どおりに、空港に迎えに来た啓介とともに、タクシーに乗り込んだ。


明日香には、この街が好きになれそうになかった。



タクシーがいきなり、あるビルの前に停まった。

青く…小綺麗とはいえないビルは、周りから少し浮いていた。

タクシーを降りると、啓介に促され、ビルに入る。

長い階段を上がると、そこは、スタジオだった。

灰色のロビーの向こうに、数多く並ぶ扉から、漏れてくる音は、明らかにリズムを刻んでいた。

少し驚く明日香を、迎えたのは、阿部達だった。

緊張気味だった明日香は、知ってる顔を見て安心した。

タブルケイにいるみたいだ。

でも、

ロビーにいるスタッフはみんな、外人。


(あっ、あたしが外人か)


明日香の顔つきが、真剣になる。


空気が告げていた。ここにいたいなら、お前の存在を示せと。

明日香は覚悟した。時間をかけて、コミュニケーションを取っる暇はない。


「どうしたらいいの?」

明日香の真剣さに、啓介は微笑むと、

「アルバムをつくる。1日でだ」

「今?」

「いや、今夜ライブハウスで録音する」

武田が、指で軽くリズムを刻む。

「それまでここで、リハするぞ」

啓介が、アルトサックスを掴む。

明日香は着替えが入った鞄を置き、もう一つの荷物…

大切な楽器ケースを開けた。
十七歳の頃から、明日香とともにあるトランペット。

昔、アメリカに渡った健司がダブルケイに置いていったトランペット…。

今は、どこにいくにも、
明日香といっしょだった。

(あなたも、アメリカは初めてね)

スタジオに飛び込むと、明日香は、トランペットのマウスに口づけをした。

トランペットの歌が始まる。