いつものように

お客の隣に座り、水割りをつくる紗理奈。

作り笑いも様になり、

最近は、精神的にも落ち着いていた。

お客の話をきき、

適切なアドバイスまで、できるようになった

紗理奈の客層は変わり、

もう、体を触させることもなくなった。

ふっと会話の合間、

紗理奈の目が、使われていないステージに向いた。

あの日、和美がいたステージ…。

しばらく見つめてしまう。

「紗理奈ちゃん、どうかしたの?」

お客の声で我に帰り、紗理奈は慌てて笑顔になる。

「すいません」

「ステージなんて見つめて。何かあるの?」

紗理奈は、おわかりをつくりながら、

「何もないです。ただあのスペースが、勿体ないなあと思っただけです」

「使ってないもんなあ」

お客は水割りを飲む。

紗理奈は、いきなり笑顔になった。

作り笑いではなく。

「もし、あたしが歌ったら…田中さんは聴いてくれますか?」

お客は少し驚きながら、

「カラオケ?」

「ちがいますよ。バンドっていうか…ギターと2人で音楽やってるんですよ」

お客はさらに驚き、

「音楽やってるだあ!」

「はい」

満面の笑顔になる。

「聴いてみたいなあ」

紗理奈の心は、踊った。

(そうだ!その手があった)


店長にいうとOKだった。

早い時間の、客引きのイベントとして。

次の日。

早速、出勤前に、

紗理奈は、ゆうを呼び出した。

いつものカラオケ店で、

ビールを飲みながら、紗理奈は本をめくり曲を探す。

いつもの様子を、眺めながら、

ゆうは、ため息をついた。

「ステージでやるって…まだ3曲だぜ。できるの…」

紗理奈は、番号を打ち込みながら、

「2曲しか無理みたい」

「2曲か…」

「日本語は、無理みたい。だから、もう決定よ」

カラオケがはじまる。

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン。

歌い出す紗理奈。

「これとチェンジ・ザ・ワールドか…」