黄昏に香る音色

和美は席を立ち、

手を上げると、扉へと歩いていく。

「じゃあね」

「姉さん!」

啓介が慌てて、声をかけても、

和美は、振り返ることはなかった。

静まり返った店内に、

外から、車のエンジンがかかる音が響いた。

すぐに、車は発車した。



「姉さん…」

2人っきりでないと、

啓介は、和美を姉さんとは呼ばない。

啓介とは違い…

和美は、母を憎んでいた。

安藤理恵を。

和美と、和美の父親を捨てた母親。

啓介も同じだけど、恵子がそばにいた。

啓介は、カウンター内の壁にもたれ、

ゆっくりと、グラスに口をつけた。

カウンター内にある小さな時計に、ふっと目をやると、

もう4時半をまわっていた。

もうすぐ日の出だ。

啓介は、ターキーを飲み干し、

2つのグラスを洗うと、

そのまま…2階へと消えていった。