(馬鹿な観客ばかり…)

ステージに上がると、和美は笑顔の裏で、せせら笑った。

あたしの音楽なんて、知らない癖に…。

テレビに出ているから、少し有名だからで、ここに来ている。

さっきから聴いてるけど、大した音はなかった。

あれで、よく人前に出るわね。

明日香。

あなたもよ。

ここにいる人達に、教えてあげる。

歌というものを。

明日香に、圧倒的な実力の差を。

これで潰れるようなら、

あなたは、それまでよ。



和美は深々と頭を下げ…上げた時には、笑顔は消えていた。

もう…和美には、観客は見えていない。

おもむろにと、和美は歌いだした。

ビリーホリディで、有名な愛するポーギーを。


身を切り裂くような…悲しい愛を歌い出す。

一瞬にして、凍りつく観客。

あまりの悲しさに、口を覆う人もいる。

それだけ凄いのだ。

表現力が、並ではない。

歌だけで、人々の心の中に、映像をこえた気持ちと、狂おしい思いが、生まれた。

汚い手で、あたしに触れないで…。

差別と…愛する人を助ける為に、体を捧げる女の…悲しさ。

歌詞の意味を理解して、歌いなさい。

と、恵子は、明日香に言った。

和美の歌は、意味を理解し…さらに、それを観客に伝えている。


(だけど…)

明日香は、和美の歌と…観客の反応を見て、みんなを呼んだ。


明日香の案に、驚くメンバー。

明日香は、トランペットのミュートを外した。



和美の次の曲は、ミニーリパートンのLovin' Youだ。

高音から低音まで、声の幅が半端でないほど…凄い。

これも、圧倒的だった。

歌が終わっても、体育館は静まり返り…

和美が、深々と頭を下げると

やっと、

解放されたように、大拍手が沸き起こる。

ステージを降りる和美。