恵子は、夢を見ていた。

それは、大した幸せではないのかもしれない。

恵子は、普通の女ではなかったのかもしれない。

周りが、彼氏をつくろうと躍起にやってるときも、玉の輿に乗ろうとしてるときも、

マイペースだった。

恵子は、知っていた。

与えられたものは、自分のものでないことを。

他人に与えられた幸せが…なくなったり…捨てられたり、ふられたとしても、仕方がないと思っていた。

だって…選ばれた理由が、若さであるか、容姿であるか、女であるかだけだから。

男と女が、出会う場所は増えても、お互いを唯一無二の相手だと

本当に感じてるのだろうか。



健司がいなくなって、数ヶ月が過ぎた。

仕方ないと思いながら、

中身が、だんだん空っぽになっていくのを感じた。

涙という直接的なものではなく…心の底から、抜けていくような…小さな穴が、恵子には、開いていた。



だけど、普通に店をあける恵子を、お客はこう言った。

強い女。

酒を飲みながら、同情を演じたり、慰めながら口説く男。

バカばかり。

あたしは、抜け殻…。

抜け殻に欲しいのは、

同情でも愛情でもなかった。


啓介が来た日。

恵子は泣いた。

無垢な瞳、無垢な笑顔。

時折泣き止まなかった。

(不安なの?)

小さな手で、泣きながら、恵子にすがりついてくる。