山手から都会に向けて、車は走る。

助手席に座る明日香。

話したいことはあったが、オープンカーの為、話しにくい。

しばらく無言の中、車は走る。

「家は、どの辺だった?」

明日香がこたえると、車は激しくカーブを曲がる。

「あなた…まだ時間ある?」


明日香が頷くと、車は止まった。

木造でできたプレハブのような店の前。

「知り合いがやってるのよ」

明日香は、車から降り、和美の後についていく。

木造の扉を開けると、サンバのリズムが流れていた。

明日香が、その音に驚いていると、

「エリス・レジーナ。ブラジルが産んだ天才よ。あなたも、歌手なら、彼女くらい知ってなさい」

奥から、ヒゲを生やしたガッチリした体格の男が出て来た。

「いらっしゃい。かずちゃん!今日は、一人じゃないんだね」

「お邪魔するわ…チーフ。たまには、若い子と触れあわないと」

チーフは、大笑いする。

「いつもの場所開いてる?」


和美と明日香は、二階のテーブル席に通される。

天井が高い店内。

一階のテーブル席を囲むように、二階は回廊のように広がっていた。

二人はテーブルに、向かい合って座った。


座った席から、明日香が住む街の明かりが、よく見えた。