明日香の歌声が、終わる。

甘い声だった。

酔いしれる観客。

でも、明日香には、そんなお客の反応などわからない。

あまりのっていないように感じ、

少し戸惑う。

啓介が、ステージに上がってきた。

明日香に耳打ちする。

明日香は頷くと、ミュートをつけたトランペットを構え、マウスピースに口づけた。

トランペットの歌が始まる。

ラウンドミッドナイト。

名演…マイルスディビスのは寂寥感に満ちていたが、

明日香のは切なさで、溢れていた。

明日香の音だけが、kkを満たし、

ゆっくりと武田のドラムが、軽くリズムを叩き、トランペットに色を添える。

やがて、ブレイクがくる。

明日香の音に寄り添うように、原田のピアノがはいり、ブレイクを誘う。

啓介と明日香がいきなり、

音を爆発させる。

爆音から羽ばたくように、啓介のサックスが、空を舞う。

あまりにも、すばらしい音のコントラスト。

明日香の音と啓介の音が、混ざり合う。

あまりにも、対象的な音。

観客は、ただ静かに音にきき惚れていた。




ただ一人を除いて…。

ブレイクの寸前に、

扉をあけようにした和美は手を止め…隙間から、音を聴いていた。

やがて静かに、

扉を閉めた。