音色…トーンだけは…。

売れなくてもいい。

俺というトーンさえ、残れば。

日本には、俳句がある。

短い響きに、深い意味をのせる。

それができる癖に、

音楽になるとできない。


日本人にはわからない。


例えば、テイクファイブをカバーするとする。

日本人はただ…メロディを奏でるだけだ。

ただアドリブというテクニックを、ひけらかすだけだ。

ただ、コードや楽譜を追うだけだ。

それじゃあ、だめなんだ。

コピー楽譜を見て、音を合わせて、

喜ぶ。

音楽は、プラモデルではない。


いつから、模倣だけの国になった。

なぜ歌詞を理解しない。

それそれが…個性あるアーティストが奏でた…感情の表れと思わない。

まったく他人と同じ、

俳句を詠んでどうする。

自分の言葉を、奏でないと…。

コピーなんか意味がない。

クラシックなら、それでいい。もう骨董品だから。

俺は、生きた今を…奏でたいのだ。

今という…すぐに過去になる時を、未来に向けて。



啓介は、スタジオを後にした。

ただ一人、帰る彼。

まだ自分の音を生み出すのに、精一杯だ。

でも…いつかは、

誰かと、音楽をやらないといけない。

音楽は、一人では表現の限界がある。

誰と組むのか…。

それは、

啓介にもわからなかった。