黄昏に香る音色

ステージ脇では、

いつのまにか…啓介が、立っていた。

「母さんが、ギターを弾くなんて…」

「あら。弾けないと思った?」

恵子は、ギターをしまいながら、啓介を見た。

「そんなんじゃなくて…」

少し不満げな顔をしながらも、

啓介は視線を、ステージ上に向けた。

「特別か…」

その目は、明日香を映していた。

恵子は、啓介の言葉にこたえず、カウンターに向かう。

啓介は軽く肩をすくめると、裏口に消えていった。



「もう一回お願いします!」

明日香はバックに、頭を下げた。

ヒュウ。

阿部が口笛を吹くと、

ベースを刻み、

ドラムが、シャッフルのリズムを刻む。

今度は、迷うことなく、

明日香は、トランペットを吹き出した。




「あら?…里美ちゃん...おはよう」

恵子は、カウンターに座る里美に気付いた。

「ママ…」

カウンターに蹲り…1人座っていた里美が、

カウンター内に入った恵子に、声をかけた。

「どうしたら…上手くなるんだろ?」

恵子は少し驚きながらも、

里美に微笑んだ。

「練習することだけよ」

「やっぱり練習かあ…」

里美は、カウンターに顔をつけ、両手を広げた。


「それも、人前でね」

恵子の言葉に、

里美は身を上げた。

「人前?」

「そうよ。音楽は1人で練習しても、仕方がないのよ」