黄昏に香る音色

明日香の体に、

恵子のギターが絡みつき、

武田と阿部が、進むべき道を創っていく。

ギターが押してくれている。

明日香はその道に向かって、歩きだす。

まだ、まっすぐ歩けないけど…。

少しフラフラしながらも、明日香はトランペットを吹き、

歩いていく。


カウンターでは、

いつのまにか店に来た…里美が、指で軽くリズムを刻みながら、ステージ上を見つめていた。

知らないうちに、

原田のピアノも、参加している。

鍵盤を激しく叩き、

明日香のバックの時みたいな…メロディー主体の弾き方ではなく、

リズム楽器でもあるピアノの姿を、浮き彫りにする。

恵子が、有名なジャックジョンソンのテーマと呼ばれるリフを弾き出すと…

やがて、演奏は終わった。

明日香は、激しい恵子のリフに圧倒され、

音を吹けなくなった。



ギターを外しながら、

「吹かなくていいときは、吹かなくていい」

恵子は、明日香に近づく。

「吹けないではなくて、今は吹く必要がないと、感じられることも…大切よ」

恵子はウィンクした。

「は、はい!」

明日香は頭を下げた。

恵子は微笑みながら、ステージを降りた。