黄昏に香る音色

曲が変わる。

武田がカウントし、

原田のピアノが、静かに転がる。

曲は、It Never Entered My Mind。

明日香は、フゥと軽く息を吸うと、

トランペットのマウスに、口づけをした。

甘く、優しい音が、

ダブルケイの店内に響く。


まだ拙い…不安定な音ではあるけど、

不思議と、聴いてるだけで、微笑む暖かさがある。

戸惑いさえも…

微笑ましい。

恵子も…自然と微笑みながらも、

演奏が終わると、タバコを灰皿にねじ込み、表情を引き締めると、

ステージに近づいた。


「最近、バラードが多いわね。得意だからといって、それだけじゃあ、駄目よ」

恵子は、厳しい口調で、ステージにいるメンバーに一喝する。

「武田くん。シャッフルのリズムを」

武田は、リズムを刻みだす。

それに合わせて、

阿部が、ウォーキンベースを弾き出す。

リズムが跳ねる。

「曲は、Right Off」