黄昏に香る音色

「あたしだって、勉強…特に、理数系は無理だって、限界感じます」

明日香の言葉に、阿部は微笑み、

「でも…死ぬ気で、頑張れば、何とかなるかもしれない。勉強なんて、答えがあるんだから…」

阿部は、タバコを取り出し、

「俺は学校とか…集団で学べるものは、ある程度、みんなできると思っている。個人差は、あるだろうけど」

恵子は、灰皿を阿部に渡した。

「この子は、頭、良かったのよ。兄が、あこぎな商売についたから…親の期待を、一身に受けて。全国模試でも十番以内で」

阿部は照れながら、タバコに火をつけた。

「昔の話だよ。結局…兄貴と同じ…あこぎな商売やってるんだから。でも…あんなに、バカにしてた兄貴みたいには…なれなかった」

ゆっくりと、阿部は煙を吐き出した。


「そういえば…大樹は、どうして、音楽をやるようになったの?今まで、きいたことなかったわね」

恵子の言葉に、

阿部は、顔を真っ赤にして、

「兄貴が…心の中では、羨ましかったのさ…兄貴が…」

阿部は、タバコを灰皿にねじ込むと、

ステージに向かった。

もう練習時間が、少なくなってる。

明日香は、音楽祭のビラを恵子に渡すと、

ステージへと走った。

阿部のベースの後、

メロディーを奏でる。