ほんのり淡い夜の中。

夜景を見渡せるラウンジに、1人…和美はいた。

見える街並みの光の輝きを、隣のカップルが、綺麗と呟きあっていた。

(綺麗?)

和美は心の中で、せせら笑った。

(こんな人工的な光が?)

和美は、光を睨んだ。


夜は暗いものよ。

夜がない街は、

安らぎのない街。

綺麗なだけ…。

夜景との間にあるガラス窓に、

和美な顔が映る。

(あたしもか…)

和美の手の中にある…グラスの中で、氷が転がる。

虚しい音を残して。



「ここだったか…」

突然後ろから、声がした。

ガラス窓に映ったが…和美は、映った姿を見たくなかった。

目をつぶり、振り返ると…和美は、ゆっくりと目を開け、声の主を見上げた。


「何を飲んでる?」

声の主の質問に、和美は微笑んだ。

「いつもの…」

声の主は、注文を取りにきた店員に、告げる。

「同じものを」

バーボンのロック…ワイルドターキー。

和美は、クスッと笑った。

「自分の意志がないの?啓介?」

和美の前に座ったのは、啓介だった。

「俺は昔から、これだろ。お前が、真似しだしたんだ」

「そうだったかもね」

運ばれてきたグラスを、手に取り、啓介と和美は軽くグラスを合わせる。

バーボンの甘い香が漂う。

「店に…行ったんだってな」

啓介は、口をつける前に、グラスを転がした。

「そうよ。恵子ママはいつ見ても綺麗ね。あこがれちゃう」

それが何か…というように、和美はグラスを、口に運んだ。

「何しに行った?」

啓介の口調が、強くなる。

「恐い顔しないでよ」

和美は、バーボンを飲み干すと、同じものを注文した。

和美は、啓介を見つめながら、頬杖をついた。

「見たかったの。啓介が気に入ってる子…。悪い?」