黄昏に香る音色

「なんか…あたしも、音楽やりたいなあ」

カウンターに座って、明日香の練習を見ていた里美がつぶやいた。

「なにがやりたいの?」

恵子の問いに、

里美は、カウンターから身を乗り出し

「ドラム!」

里美は、叩く真似をしながら、

「こう…すべてをぶち壊すような!コノヤロウって感じで」

恵子は苦笑し、

「理由はどうであれ…。興味をもつことは、いいわね…でも、ドラムはむずかしいのよ」

恵子は、指でカウンターを叩いた。

当然音がなる。

「ドラムは、叩いたら…誰でも鳴るのよ。だからこそ、ある程度のリズム感があれば、叩けるわ。だけど…」

次は、少し強くカウンターを弾くように、叩く。

「感動できる一音を叩けるアーティストは、一握りだけ…」

ぽかんとしている里美に気づき、苦笑した恵子。

「ごめんなさい。そこまで考えなくていいわね」

ちょうど、ステージ上で歌っていた明日香が、終わったところだ。

恵子は、ドラマーの武田を呼び、里美に教えるように言った。

無表情に頷く武田と、

驚く明日香。

「ちょうどよかったわ。うちは、年寄りばかりだから…」

恵子は、明日香に微笑んだ。