黄昏に香る音色

目の前に、カフェがあった。

流れてくるジャズが、心地よくて、

疲れ果てた2人は店に入り、少し休むことにした。

テーブル席が7…後はカウンターという狭い店内。

奥のテーブル席には、女性が1人。

後は、若いカップルばかり。

カウンターは、ほぼ埋まっていた。

2人は、あいている一番入口寄りのテーブル席に、座った。

注文を取りにきた…優しそうなおばあちゃんの笑顔が、さらに心地よかった。

商売なのは、わかっているけど、さっきまでの冷たい視線に、比べると、

どれだけ優しいことだろうか。

これこそ、接客業だなと、恵子は受け取ったおしぼりで、手をふきながら、

感心した。

店内は、シンプルで余計な装飾がない。

ただ、壁に飾っている数枚の、ブルーノートのレコードジャケットだけが、空間を演出していた。

「ケニー・バレルか…」

健司が呟いた。

ケニー・バレルのミッドナイト・ブルー。

レコードジャケットの中では、最高にクールなデザイン。

恵子は、コーヒーが来るまで、その淡い色のジャケットを眺めた。