黄昏に香る音色

演奏を終えたバンドが、ステージを降りても、

啓介だけは居続けた。

スカ、ロック、ファンク…。

次々に登場するバンドたちと、

啓介は、共演を続ける。

決して、

邪魔することなく、

周りと融合しながらも、

啓介の個性は、醸し出していた。


啓介の心が、叫ぶ。

サックスだから、

なぜ、ジャズをやらなければならない。

俺は、どんな音楽でも合わせてみせる。

そして、

どんな音にも、埋もれることはない。

一音で、

俺だとわかる音。

それが、啓介がほしいものであった。

そして、目標であった。

ジョンコルトレーンやウェインショーターのように。




すべてのバンドが、終わった。

会場が静まり返り、

最後のバンドが、片付けていても、

誰も帰らないどころか…人が、増えている。

みんな知っていたのだ。

今までが、前座であることを。

ステージに一人残る啓介の顔が、真剣になる。

恵子が、ここに明日香を行かせたのは…啓介を聴かせたいだけではなかった。

静かにステージに上がる…赤い影があった。