霞がかかったような店内に、恵子はいた。

kk…

ダブルケイという名のbar。

「これ、置いていくのね…」

恵子は、カウンターに置かれたトランペットを、

そっと撫でた。

「いらないからな…」

健司が呟いた。

最後のタバコに火をつけた瞬間、

店の扉が開いた。

逆光の中、佇む細身の女。

安藤理恵。

恵子から、すべてを奪っていく女。

理恵は、店内を一瞥すると、すぐに消えた。

恵子を、見ようともしないで。

「待つのが、嫌いな女だからな…」

健司は、吸いかけのタバコを、灰皿にねじ込むと、

カウンターから立った。

「俺を、憎んでもいい」