黄昏に香る音色

「キャッ!」

電車とホームとの隙間に、バランスを崩し、倒れそうになるあたしの腕を、

ゆうの手が掴んだ。

しっかりと力強く手が、あたしを支え、倒れるのを防いでくれた。

体勢が落ち着き、ホームに降り立ったあたしは、

どきどきする心臓を押さえて、

「ありがとう…」

と言った時には、


もうゆうは、改札口に向かって歩いていた。


「あ、あのお〜」

呼び止めようとしたけど、次々に降りてきて、学校へ向かう生徒達の背中に、声はかき消された。



その日から、あたしは…ゆうのいる車両に乗り続けた。

乗り込む時に、頭を下げ、

それから、話し掛けようとしたが…あまりにも、近すぎる。

言葉が出ないのだ。



毎日、乗り込んでは深々と、頭を下げては、無言で隣に立つ。

一応、乗り込むと、背中ではなく、体をドア側に向けて…いつでも、降りられる体勢は作っていた。

だから、ドアが開くと、スタートダッシュみたいに、ホームに飛び降りることになってしまう。


数週後、いつものごとくスタートダッシュし、

なぜか駆け足で改札口に向かうあたしよりも、

ゆうは早く、ホームに降りた。

そのあまりの素早さに、あたしは驚いた。

「あのさ〜」

ゆうは鞄を背負ったまま、振り返ると、あたしを見つめ、

「もう…謝らなくいいから」

そう言うと、背を向け、

「感謝は、伝わってるから」

そういうと、右手を軽く上げ、改札口に向かって、走りだした。