黄昏に香る音色

「今は歌ってないの」

明日香の腕の中のCDを、目を細めて見つめながら…

恵子は、呟くように言った。

しばらく続く、長い沈黙…。

そんな空気に気を使って、慌てて阿部が、言葉を切り出した。

「ここBARだけど…ママ、コーヒーあったよね」

「コーヒーはあたし用」

恵子は視線をCDから、明日香に向け、じっと瞳を見つめた。

そのあまりにも強い視線に、明日香は俯き、無言になってしまう。

「ブラックだけど…いい?」

恵子の言葉に、

明日香は顔を上げた。

恵子は微笑み、

「まずは座って」

「は、はい!」

慌てて、明日香はカウンターに座った。

恵子は、コーヒーカップを棚から取り出した。

カップに、コーヒーが注がれる。

「はい。どうぞ」

明日香は、置かれたカップを、両手で持つと、

緊張して、震えながら飲んだ。

苦い。

思わず顔をしかめる。

恵子は苦笑すると、

「歌を聴きにきた…だけじゃないわね?どうして、ここがわかったの?」