黄昏に香る音色

深呼吸をし、意を決して

開けた扉…BARという空間に、呆気に取られてしまう。

扉を開いたまま、立ち竦む明日香に、

誰かが、後ろから声をかけてきた。

「何か、御用?」

はっとして振り返ると、長身の阿部がいた。

阿部の高さに、見上げながら、さらに呆気に取られてしまう。

そんな明日香のことを、訝しげに見ていた阿部は、あるものに気付いた。

明日香が、ぎゅっと抱き締めているCD。

阿部はああと納得すると、店内に向って叫んだ。

「ママ!ママのファンが来たよ!」

その声に、カウンターの奥から、姿を現した人物は…

CDのジャケットよりも、年は取っているけど、

紛れもなく、

あの人だった。

明日香を、ここまで導いた歌声の人。