黄昏に香る音色

「離して下さい!」

明日香は、振り解こうとしたけど、

高橋は、離さない。

「あいつのところに、行くつもりだろ!頼む!いかないでくれ!」

高橋は、片手でポケットから、CDを取り出し、

明日香の目の前に、差し出した。

それは、チェットベイカーのシングスだった。

「これが、ほしかったんだろ!」

CDを、無理やり、押し付けられ、

明日香は、手で払いのけた。

CDが、廊下に転がる。

それを見た高橋は、思わず、

平手で、明日香を叩いた。

「きゃ!」

明日香は、軽く吹っ飛んだ。腕を掴まれているから、倒れなかったが、痛みで思わず、叫んだ。

高橋はその声で、少し我に返った。

明日香と、廊下に落ちたCDを交互に見、

肩を震わせながら、叫んだ。

「どうして…わからないんだ!」