黄昏に香る音色

「今日は、遅かったわね」

少し厚い唇の端に、ねじ込んでいた煙草を、灰皿に置くと、

恵子は、いつものようにコーヒーを入れてくる。

少し苦くて、ビターなコーヒー。

これでも、甘くしてくれているみたい。

恵子から、カップを受け取り、一口コーヒーを啜った明日香は、思わず顔をしかめた。

そんな明日香を、優しく見つめる恵子。


店の奥にあるステージ。

決して広くはない。

ドラムとピアノが置いてあるだけで、ギュウギュウになってしまっている。

だけど、その狭い空間が、明日香にとって、特別な空間だった。

ステージ上では、ドラマーで、無口な武田が、小刻みにリズムを刻んでいる。

小太りで、愛敬のあるクリッとした目をした原田は、ピアニスト。

そして、

「明日香ちゃん。時間がもったいないから…あわそうか」

トイレにいってたらしく、阿部がステージ左奥から、でてきた。

180以上ある身長に、細身のすらっとした体型が、まさしくベーシストだ。

明日香は、コーヒーを飲み干すと、

少し舌を出し、顔をしかめたまま、

急いで、ステージ右横の通路に、置いてあるトランペットを取りにいく。



古びたケースから、取り出したトランペットに、マウスをつけると、

ステージに上がった。