黄昏に香る音色

駅についても、

里美は、あまりしゃべろうとしなかった。

里美とは、反対の車線に乗る為…明日香は別れた。

俯いたままの里美が、先に電車に乗って、

ドアにもたれるのが、確認できた。

明日香は、手を振ってみたけど…里美は、こちらを見ようとはしなかった。

明日香の乗る電車も来た。

明日香も飛び乗ると、向こう側のドアに走る。

ガラスとガラスの向こうに、里美がいる。

俯いたままの里美を乗せた電車は、発車した。

明日香を乗せた電車も、動き出した。

1駅向うで、地下鉄に乗りかえ、2駅目で降りると、

もう山は、目の前だった。

改札をでてから、2分程…山頂向かって歩くと、

一軒のBARがあった。

KK…と書いて、ダブルケイ。

明日香は、クローズと…まだプレートがかかっている扉を開けた。


店は7時オープンの為、店内にお客はいない。



「おはよう」

少しけだるいが、

凛とした声が響く。

「おはようございます」

頭を下げた明日香の向こう…カウンターの中にいる女性。

ショートカットに大きな瞳。

化粧気はないが、

どこか色っぽいかった。

恵子ママ。

明日香の音楽の師匠だ。