少しして、次の電車が前を通り過ぎようとした時、

「音楽!」

里美は、大声で叫んだ。

電車が通り過ぎる風と、踏み切りが上がる音に、

里美の言葉は、かき消された。

踏み切りが開いた。

多くの人が行き交う。

歩き始める2人。

明日香は、並んで歩きながら、里美の横顔を見つめた。

淡々と歩く里美。

ふっと明日香は、後ろからの視線を感じた。

振り返ろうとした明日香と

里美を、自転車が追い抜いていく。

すれ違う視線が、

一瞬…

明日香に絡みつく。

じっと、見つめられているように、感じた。

永い一瞬。

「高橋くん…」

里美が、去り行く自転車の背中を見つめた。


「え?」

明日香は、思わず里美の言葉に反応した。

里美の切なく、見送る瞳。

明日香も、高橋が去った方を見た。

すれ違った…高橋のあの瞳。

明日香を見ていたと思う瞳。

それは、とても強い意志をもった瞳だった。