この時期の桜の木を見るのが、ずっと苦手だった。

 満開の桜に心躍らせて、約束を叶えるために一緒に頑張ろうと誓ったはずだった。4年前の葉桜の頃、それができないと言われた。闘病で体力が落ちることだけでなく、どこかで、自分の死期を感じ取っていたのかもしれないと今なら分かる。

 拓人が亡くなった後、本当にいないんだということを、なかなか理解できずにいた。気がつくと桜はもうとっくに散っていて、葉桜が1年という時間をまざまざと見せつけたような気がした。

 「あのさ、奏太。」
 「ん?」
 「この前…入学式の後さ、桜が苦手って言ってたじゃん。」
 「うん。」
 「去年どうしてたかなって思ったんだけど、思いだせなかった。」

 去年の同じ頃。新しい仲間とうまくやっていけるかという悩みと同時に、拓人だったら、あいつが生きていたらと、手持無沙汰な通学の車内でうじうじ考えて、前を向けなくなっていた。

 「で、ふと思い出したんだ。5月に入る手前ぐらいに、今の奏太にぱっと切り替わって『あ、ホントは明るいんだ』って思ったなって。」
 「そうか…自分では普通にしてたつもりだったけど。」
 「あの時は分からなかったんだけど、拓人くんのお墓に行った後だったんじゃない?」

 晴香の指摘の通りだった。