手桶を元の棚に戻して、僕たちはバス停へ向かう道を歩いた。

 「ありがとう、晴香。」
 「どういたしまして。」

 少し間が空いた後、晴香が話しかけてきた。

 「あのさ、奏太」
 「ん?」

 分かってる、聞きたいこと。顔に書いてある。そう思っていた。

 けれども、出てきた言葉は意外なものだった。

 「たまには、逃げたっていいんだよ。なんて言うか、たまには、頼ってよ。頼りないだろうけど。」

 意外すぎて、動けなくなっていた僕の手を、晴香がすっと引っ張った。

 「は~らへった~、は~らへった~」

 そのまま手をつないで歩いた。どんな心境から来るのかよく分からない。手をつなぐって、どう受け取ればいいのかよく分からない。僕の混乱をよそに、晴香はつないだ手をぶんぶん振り回してきた。

 「たまに難しい顔してるとき、声かけていいか分からないんだよ。」

 晴香がぶんぶん振り回しながら、真面目な顔して話し始めた。