「いたい!なにふんの!」
 「口角上げさせてんの」

 つねりながら、なぜかニコニコ笑う奏太にむかついた。

 「えーと、そうだな」

 容赦なく痛い。でもなんだかニコニコしている。心底腹が立ってきた。

 「とりあえず、笑え」
 「なにいってんの?」
 「笑う門には福来たるっていうじゃん。」
 「は?痛いんだけど!離してよ!」

 なかなか離してくれなかった。

 「はーなーせー、いてーよ、ばか」
 「やだ」

 離せ、イヤだの押し問答が続いたが、ほっぺの痛みに耐えられず、私が折れた。

 「練習なんだから、間違えたっていいんだよ。怒られている原因は一人じゃなくて、パート全体なんだから。責任は、晴香だけじゃない。」
 「…分かったよ、帰らない」

 その言葉を聞いて、奏太はつねるのをやめてくれた。