「そんなに金持ちじゃねーんだけど」
 「じゃ、駅で借りる」

 少し考えたあと、私の頭をぽんぽんと叩きながら、奏太はこう言ってくれた。

 「晴香が帰ったら、僕が困る」
 「がんばって」
 「なんだそれ。自分一人ぐらいいなくて平気とか思ってんのか?無理だから。晴香ほど音量ないし、一人で3rdパートできるほど、度胸も技量もない。大体、ギリギリ人数でやっている部活で一人消えたら、どんだけ大変か、分かってるだろ?」
 「でも、楽器が嫌いになるほど辛いのに、続けなくちゃいけないものなの?」
 「嘘つけ、嫌いになれないくせに。何をそんなに背負い込んでるんだよ?」
 「あれこれ」

 目をつぶって少し考えた後、奏太が私の前に立った。

 次の瞬間、両手でほっぺをつねられた。