うっかり涙が出そうになってうつむくと、
遼平君は黙って微笑んでから、
もう一度私の手をとった。
「行くよ、亮介を探そう。」
「やだ、行かない。」
立ち止まって、足を踏ん張った。
すでに繁華街の方に目をやって
今から廻れそうな所を
思案していたらしい遼平君は、
しょうがないなあという顔で
振り返って、私と向かい合う。
「亮介と仲直りしたいんだろ?」
「そんなんじゃないもん。」
喧嘩じゃないんだから。
ちゃんと私の話を聞いてくれてたはずなのに、
そんな事を言う遼平君を、ちょっとにらんだ。
遼平君は苦笑して、
軽くおどけるように、肩をすくめた。
それからあっさり視線を戻すと、
背筋を伸ばして、歩き出そうとする。
「亮介がなに言ったか知らないけど、
俺がかわりに、琴子ちゃんに謝るから(笑)」
冗談みたいにそう言って、今度は強く、
私の手を引いた。
少し痛くて、びっくりした。
驚いて見上げた遼平君の横顔に、
普段にはない、
どこか頑ななものを感じて
ドキッとする。
遼平君は
気がついたように手を離すと、
とても穏やかな顔で私の瞳を覗き込んだ。
「亮介は、きっと会いたいと思ってるよ」
そう言った声は
囁くようにかすれていて、
けれど真っ直ぐで揺るぎない瞳は、
私が動き出すのを待っている。


